想像してみてください。クライアントのウェブサイトを作業中。WordPress Studio で何週間もかけて開発してきた新しいテーマを、ついに仕上げたところ。ローカル環境では完璧なデザイン。Studio の同期機能を使って、いよいよ本番環境へ反映しようとしています。

でも、ここで問題がひとつ。反映したいのはテーマだけ。すでに本番環境で安定稼働しているプラグインはそのままにしたいし、ローカルのテスト用コンテンツをライブのデータベースに上書きしたくもない。

そんな状況、思い当たる方も多いのではないでしょうか?これまでは、Studioの同期機能は「すべてか、なしか」でした。ローカル環境と WordPress.com や Pressable 間で、サイト全体をまるごとプッシュ・プルすることは簡単でしたが、「テーマだけを同期」するような柔軟な選択は不可能でした。

それが変わります。WordPress Studio バージョン1.5.5で、「選択的同期(Selective Sync)」機能が追加されました。

より細やかな同期コントロールの実現

「選択的同期」を使えば、WordPress Studio と接続中の本番サイトやステージングサイト間で、何を同期するかをピンポイントで制御可能。1つのテーマ、特定のプラグイン、データベースのみ、あるいは wp-content フォルダ全体——必要なものだけを選んで同期できます。

The Pull from Production window in WordPress Studio with 'Files and folders,' wp-content, and plugins checked

WordPress 開発の現場では、本番サイトは常に変化しています。新機能をローカルで開発している間にも、ライブサイトは訪問者に対応し、注文を処理し、ユーザーデータを蓄積中。そのため、全体を同期してしまうと、変更内容の喪失や、稼働中のユーザーへの影響につながるリスクも。

「選択的同期」が真価を発揮するシーンは、たとえば以下のようなものです:

  • プラグイン開発:テスト用データで新機能を開発していても、それを本番環境に反映させたくはないもの。「選択的同期」を活用すれば、プラグインのファイルだけをプッシュ可能。ローカルのデータベースを分けて保ったまま、本番データに干渉せずに機能だけを公開できます。
  • テーマの更新:テーマ開発も同様の課題があります。レイアウト調整やブロックパターンのテストに日数をかけた場合でも、デモ投稿や画像まで含めて反映したくはない。「選択的同期」を使えば、テーマのファイルだけを簡単にプッシュできます。
  • プライバシーとスケールWooCommerce ストアのような大規模ストアを扱っている場合、製品数や顧客数が膨大。ローカルにフルコピーするのはリスクや負担が大きいことも。「選択的同期」の活用により、個人情報をローカルに持ち込まずに特定のテーマやプラグインの開発ができます。
  • 専用環境での開発:作業を種類ごとに分ける開発者も少なくありません。ある環境はプラグイン用、別の環境はテーマ用といった使い分け。「選択的同期」なら、同じ本番サイトに別々の環境から接続して、対象部分だけを個別に同期可能。プロジェクトの他部分に干渉せずに作業できます。

2025年1月のフルサイト同期機能の登場以来、より柔軟な同期方法を求める声が多く寄せられてきました。「選択的同期」は、そうした現場からの声に応えて生まれた機能。Studio を現実的な開発ワークフローに合わせやすくするための改善です。

選択的同期の使い方

WordPress Studio が初めての方も、同期機能だけでないその魅力を知る絶好の機会。
Studio は無料・オープンソースで、WordPress プラグインやテーマ、フルサイトの開発を効率よく、楽しくするツールです。

すでに使用中の方は、アプリの指示に従って最新版にアップデートしてください。
以下に初期設定の手順を紹介します。

注意点:WordPress Studio は無料で使用できますが、同期機能にはビジネスまたはコマースプランの WordPress.com サイト、または Jetpack セキュリティプラグインがアクティブな Pressable サイトが必要です。詳細については、公式ドキュメントを確認してください。

ライブサイトに接続

まずは、ローカル Studio サイトと、WordPress.com または Pressable 上の本番・ステージングサイトを接続します。Studio から新規サイトを作成することも可能:

  1. Studio サイドバーから接続したいサイトを選択
  2. 同期タブを開く
  3. WordPress.com にログイン(未ログインの場合)
  4. サイトを接続」ボタンをクリックして、利用可能なサイトを表示
  5. 接続したいサイトを選択し、接続ボタンをクリックして確認
  6. (オプション) 「新しい WordPress.com サイトを作成」をクリックして新しいサイトを作成
The connect your site modal window in WordPress Studio showing a list of production sites on WordPress.com and Pressable

Studio にコンテンツをプル(取得)する

接続が完了したら、ライブサイトから Studio にデータを引き込んだり、その逆にローカルからライブへ反映できます。

プル(取得)の手順:

  1. 対象サイトの同期タブを開く(まだそこにいない場合)
  2. 接続された WordPress.com または Pressable サイトを確認
  3. プルをクリックして同期モーダルを開く
The Pull from Production window in WordPress Studio with 'Specific files and folders' selected in the drop-down menu
  1. すべてのファイルとフォルダー」または「特定のファイルとフォルダー」を同期するかを選択し、チェックボックスを使って含めたいものを選択
  2. 同期にデータベースを含めるかどうかを決定
  3. プルをクリックして確認し、同期を開始

同期には少し時間がかかる場合があります。本番サイトのバックアップが自動で作成され、完了後すぐにローカルで作業可能になります。

コンテンツをライブサイトへプッシュ(反映)する

Studio から接続されたサイトにコンテンツをプッシュするプロセスは、プルと似ていますが、より多くの制御があります。個別のプラグイン、テーマ、その他のファイルを同期することができます。

  1. 同期したいサイトの同期タブを開く(まだそこにいない場合)
  2. コンテンツをプルしたい接続された WordPress.com または Pressable サイトを見つける
  3. プッシュをクリックして同期モーダルを開く
The Push to Production window in WordPress Studio with 'Files and folders,' wp-content, themes, and base checked
  1. すべてのファイルとフォルダー」または「特定のファイルとフォルダー」を同期するかを選択し、チェックボックスを使って含めたいものを選択。プラグイン、テーマ、アップロードフォルダーを展開して、個別のアイテムを選択可能
  2. 同期にデータベースを含めるかどうかを決定
  3. プッシュをクリックして確認し、同期を開始

こちらも処理には時間がかかることがありますが、反映前にバックアップが作成され、安全に作業が進められます。同期完了後にはメール通知も届きます。

「選択的同期」活用のヒント

選択的同期は開発を効率化するために設計されていますが、事前に知っておきたいポイントも。

Studio から本番またはステージングサイトにプッシュする際、開発専用ファイル(.gitディレクトリや node_modules フォルダーなど)は自動的に除外されます。これらのファイルはローカルに残り、ライブサイトをクリーンで効率的に保ちます。

前述のように、Studio にコンテンツをプルする際には、個別のアイテムを選択するのではなく、すべてのテーマやすべてのプラグインなど、フォルダー全体を同期できます。それに対して、ライブサイトにプッシュする際には、特定のテーマやプラグインを選択できます。この設定はほとんどのワークフローのニーズを反映していると考えていますが、将来の改善のためにフィードバックを常に受け付けています。

選択的同期は多くの一般的なシナリオをカバーしていますが、一部のプロジェクトではより高度なデプロイメントワークフローが必要な場合があります。その場合、GitHub デプロイメントは、WordPress.comでより多くの制御を提供し、Studioと連携して複雑なセットアップに適しています。

Studio の今後は?

選択的同期は、開発者が日々使用するさまざまなワークフローをサポートするための広範な取り組みの一部です。その作業は続いており、特に Studio を支える WordPress Playground 内で進行中です。

今後の改善には以下が含まれます:

  • XDebug サポート:最もリクエストの多い追加機能の一つで、WordPress Studio にプロフェッショナルなデバッグ機能をもたらします。GitHub でフォローしてください
  • パフォーマンスの改善:WordPress Playground での今後の改善により、Studio はさらに高速でレスポンシブになります。

コミュニティの声が、これらの改善を後押ししています。フィードバックや機能要望、バグ報告、貢献はすべて WordPress Studio GitHub リポジトリにて受付中。

はじめて Studio を使う方も、久しぶりに触れる方も、今こそ再チェックのチャンス。「選択的同期」をはじめ、今年だけでも多数の新機能が登場しています。これからのアップデートにもぜひご期待ください。