2026年、WordPress のデザインは、AI 支援によるサイト構築、アプリのようなダイナミックな体験、そして「所有権(自社メディア)」の再評価へと大きくシフトしています。

WordPress の専門家たちへの取材を通じて見えてきたのは、サイト構築のあり方そのものが大きく変わり始めているということです。ウェブサイトがアプリのように動作し、AI が制作プロセスを加速させる時代が、すでに現実になっています。

今回は、WordPress.com 特別プロジェクトデザインチームの Allan Cole 氏、WordPress.com ブランドアンバサダーの Pablo Moratinos 氏をはじめとする WordPress デザインの専門家たちに、2026年の WordPress デザインの方向性について話を聞きました。

1. WordPress 開発は「コーディング」から「プロンプト」へ

以前、ウェブサイトの機能を作るには、まず空白のコードファイルを開く必要がありました。今では、自然言語(プロンプト)での指示から始まります。

AI ツールは、動作するコンポーネント、プラグイン、テーマを生成し、セットアップにかかる時間を大幅に短縮しています。必要なものを文章で説明するだけで実用的な土台が完成し、そこからブラッシュアップを重ねていくことができます。

たとえば Telex を使えば、プロンプトからネイティブの WordPress ブロックを生成できます。内容を指示し、調整し、完成したものをプラグインとしてダウンロードすれば、そのままサイトへインストールできます。

Cole 氏は次のように述べています。

デザイン思考とコンテンツ制作をシームレスに結びつける上で、非常に優れたアプローチです。

Telex AI搭載のブロックビルダーのスクリーンショット

さらに、プラグインやテーマ全体の構築も可能になっています。

たとえば Claude Code と WordPress Studio を組み合わせれば、専門的な開発知識がなくても、自然言語のプロンプトからプラグインを生成できます。

Claude CodeとWordPress Studioの組み合わせのスクリーンショット

構築コストと技術的ハードルが下がることで、これまで開発に関われなかった人たちも制作できるようになります。その結果、思いもよらないアイデアや作品が生まれます。今後市場で際立っていくのは、新しいツールを使える人ではなく、独自のセンスと着眼点でそれらを活用できる人たちです。

2. WordPress サイトは「ウェブページ」から「ウェブアプリ」へ

多くのウェブサイトは、今でもリンクをクリックするたびにページ全体を再読み込みし、表示を待つという従来型の仕組みで動いています。

WordPress のInteractivity API では、それを変えようとしています。

これは、ブロック同士が動的に連携しながら更新できるネイティブフレームワークです。ページ全体ではなく必要な部分だけを更新できるため、サイトの操作感が驚くほど滑らかになります。

Cole 氏は次のように述べています。

「WordPress を本当のアプリのように感じられるようになります。これまでは想像もできなかったレベルです」

たとえば、タブやアコーディオン、タスクリストなどのインタラクティブな要素が、ページの再読み込みなしで瞬時に切り替わります。この公開されているデモを見れば、実際にどのような事ができるのかよく分かります。

WordPressのインタラクティブ要素のスクリーンショット

このようなアプリ化へのシフトは、具体的に以下のような実用面(メリット)となって現れています。

  • クライアントサイドナビゲーション:ページ全体をリロードせず、必要なコンテンツだけを瞬時に更新
  • 状態の共有:ショッピングカートや検索フィルターの条件などが、サイト全体で即座に同期
  • ノンブロッキング操作: データの読み込み中であっても、ユーザーは待たされることなく次の操作が可能

ビジネス視点で見れば、直帰率の低下やコンバージョン体験の向上、そして「アプリのような UX」をカスタム開発なしで手軽に実現できる点が大きな利点となります。

3. ブロックエディターは成熟期に入り、エージェンシーも本格採用へ

かつての「Gutenberg」は機能が限定的だったため、多くのエージェンシーがデザインの柔軟性を補うために外部のページビルダーを導入していました。これは一時的な解決策にはなったものの、サイトの重量化やプラグイン依存といった新たな課題を生む原因にもなっていました。 しかし状況は完全に変わりつつあります。

Cole 氏はこう指摘します。

「ブロックエディターは完全に成熟段階に入りました。現在では、標準のエディターでサイトを構築することへの信頼感が、以前よりはるかに高まっています」

WordPress デザインエージェンシーにとって、標準のブロックエディターを採用するメリットは明確です。

  • 再利用可能なパターンによる制作効率の向上
  • レイアウトを固定しながら、クライアント自身が安全にコンテンツを編集できる環境の提供
  • タイポグラフィやレイアウト調整をネイティブ機能で管理可能
  • カスタム CSS への依存を削減
WordPressパターンライブラリのスクリーンショット

かつてはカスタムコードが必要だったデザインの多くが、今では標準のエディター内で完結します。その結果、プロジェクト全体の納期も大幅に短縮されています。

4. デザインシステムが WordPress ワークフローの標準になりつつある

従来は、デザイナーが作成したレイアウトをもとに、開発者が手作業でスタイルをコードに落とし込んでいました。

しかしこの方法ではデザインの不整合が起きやすく、サイト規模が大きくなるほど維持管理のハードルが上がります。現在の WordPress デザインは、「デザインシステム」を中心に構築される方向へ移行しています。色、タイポグラフィ、余白ルールなどを一度定義すれば、それをサイト全体で一貫して再利用できるようになります。

特に最近では、Figma 上で構築したデザインシステムを、ブロックテーマの構成ファイル(theme.json)に直接反映させるフローが一般的になっています。

これにより、エディターを開いた時点でブランドのルールが自動適用されるようになります。

Figmaデザインシステムのスクリーンショット
Figmaトークンでデザインシステムを設定し、その後WordPressと接続します。

Cole 氏はこう説明します

「色、フォント、サイズ、余白など、Figma 上で行った細かな判断が、そのままエディターに反映されます。」

これは単なる効率化にとどまらず、「ブランドの品質を維持したまま、サイトの規模をスケールできる」という大きな強みになります。

5. ハードルが下がったからこそ、人間の「判断力」が価値を持つ

AI が登場したからといって、優れたデザインが不要になったわけではありません。変わったのは、「アイデアを試すことへの障壁」が圧倒的に低くなった点です。

アイデアを思いついてから、実際に形にして確認できるまでの距離が劇的に縮まりました。

たとえば WordPress.com の AI ウェブサイトビルダーを使えば、たった一つのプロンプトから機能的なサイトを即座に自動生成できます。さらに、エディターに組み込まれた AI アシスタントが、コンテンツ制作やブランドトーンの統一をサポートしてくれます。

WordPress.com AIアシスタントのスクリーンショット

さらに、WordPress.com の Claude コネクターを利用すれば、使い慣れたワークフローを離れることなく、サイトの分析や情報収集を行うことも可能です。

WordPress.com Claudeコネクタのスクリーンショット

変わったのは制作プロセスだけではありません。クライアント側の意識も変化しています。現在のクライアントは、AI が生成した参考デザインや、すでに自分で半分形にした状態で試作品を持ってきます。

そのため、依頼内容は「ゼロから作ってください」ではなく、「ここまで自分で作ってみたので、プロの力で次のレベルへ引き上げてください」という会話に変わってきています。

インドのフルサービス Web エージェンシー「LUBUS」の創設者兼 CEO であり、WordPress.com ユーザーでもある Ajit Bohra 氏はこう言っています。

「AI はアイデアをすばやく試し、方向性を検証するプロセスにおいて非常に優秀です。そして、クライアントが『これこそ自分が求めていたものだ』と確信した段階で、人間のプロの力が必要になります。いまやクライアントは、すでに何かしらのベースを作ってから私たちのところへやってきます。そのため、私たちは最初からお互いにゴールイメージ(基本的なアイデア)を共有した状態でスタートできるようになりました」

最終的に優れた成果物を生むのは、自分はどんな価値を届けたいのかを深く理解している人間です。AI は、そのゴールへ到達するスピードを圧倒的に速めているだけです。

6. プラットフォーム依存を脱却し、「所有メディア」へ回帰する

AI が生成したコンテンツがネット上に急増したことで、企業がオンラインで独自の信頼性や差別化を築く難易度は今まで以上に高まっています。

さらに、SNS などの外部プラットフォームのアルゴリズム変更に振り回されるリスクを背景に、多くの企業が「自分たちで完全にコントロールできる基盤(自社メディア)」の重要性を再認識しています。

Pablo Moratinos 氏は、この状況をこのような言葉で表現しています。

「他人の土地(SNSや外部プラットフォーム)に、自分の家を建てることはできません。」

実際にこの変化は、ビジネスの現場において以下のような戦略シフトとなって現れています。

  • 不確定な「フォロワー数」よりも、ダイレクトに繋がれる「メール購読者」の価値を重視
  • SNSからの流入よりも、自社ドメインへの「オーガニック(検索)流入」を最優先
  • 規約変更に左右されるプラットフォームのアルゴリズム依存をやめ、「ファーストパーティデータ(自社で収集したデータ)」を蓄積・活用

つまりウェブサイトは、消費されるだけの単なるマーケティングツールではなく、「ブランドの信頼を担保し、顧客との深い絆を育むコア資産」へと原点回帰しているのです。 これにより、デザイナーやエージェンシーの役割も再定義を求められています。ただ見栄えの良いサイトを構築するフェーズは終わり、次のような「ビジネスの仕組み」そのものを設計する視点が求められています。

  • ニュースレター登録へ、自然に誘導できる UX デザイン
  • 継続的なオーガニック流入を生み出すコンテンツ設計
  • ユーザーに「また訪れたい」と思わせるリピート体験の設計

2026年の WordPress デザイン:次に重要なのは何か

すべてのデザイントレンドを追いかける必要はありません。大切なのは、制作を高速化し、運用を効率化しながら、長期的な価値を生み出し続ける「正しいツールとワークフロー」を冷静に見極めることです。

今すぐ実践できるアプローチとして、以下の4つの方向性が挙げられます。

  • ブロックテーマとデザインシステムを活用:一貫性があり、再利用や引き継ぎが容易なレイアウト基盤を構築する。
  • AIによるプロトタイプ制作の高速化:コンテンツやレイアウトの初期提案にはAIを活用しつつ、最終的なクオリティの判断は人間が担う。
  • 「所有」を前提とした設計: 訪問者をリピーターや購読者に転換し、外部プラットフォームに依存しない関係性を目指す。
  • アプリのような快適な操作性の追求: サイトは「どう見えるか(見た目)」と同じくらい、「どう感じられるか(体験)」が重要であると認識する。

今後、市場で選ばれ続けるエージェンシーやデザイナーとは、すべての最新ツールを網羅している人ではありません。「どのツールが自分たちの仕事の質を高めてくれるのか」、そして「どのプロセスが人間にしかできない決定的な仕事なのか」を正しく理解している人です。