私が初めて WordPress でサイトを作ったのは、2010年のことです。今はWordPress.com のマーケティングチームで働いていますが、ポーランド・クラクフを訪れるまで、一度も WordCamp に参加したことがありませんでした。

今年の WordCamp Europe には、81か国から2,458人が集まりました。会場は、歴史ある街クラクフに建つ ICE クラクフ・コングレスセンター。ガラス張りの現代的な建物で、参加者のおよそ4人に1人が初参加でした。私もその一人でした。

クラクフという街が教えてくれたこと 

クラクフに着いてまず印象に残ったのは、街の至るところに歴史が息づいていることでした。街を歩けば、歴史ある建物や石畳が目に入り、長い年月を重ねてきた街の魅力を肌で感じられます。

一方で会場となった ICE クラクフ・コングレスセンターは、ガラスと光に包まれたモダンな建築です。シャープなラインと開放的な空間が、未来へ向かうエネルギーを感じさせます。

この対比を目にした瞬間、「これこそが WordPress だ」と思いました。

2003年にブログツールとして誕生した WordPress は、今では世界中の Web サイトの43%を支えるプラットフォームへと成長しました。オンライン出版の歴史を築いてきた存在でありながら、今も進化を続けています。

初めて参加した WordCamp Europe 2026 をレポート。AI検索時代のコンテンツ戦略やブランド構築、アクセシビリティ、WordPress コミュニティから学んだ、今も変わらない大切な原則を紹介します。

セッションが始まる前に、人と人がつくるコミュニティ

私がクラクフに到着した日は、Contributor Day(コントリビューターデー)でした。

カンファレンス前日に行われるイベントで、WordPress コミュニティのメンバーが集まり、コードの開発やドキュメントの整備、コミュニティ運営など、各分野で WordPress に貢献する一日です。

WordPress.com チームは近くのホテルでブースの準備を進めていました。配布するオリジナルのピンバッジや、おそろいの T シャツ、来場者向けのノベルティを箱から取り出し、丁寧に並べていきます。そんな光景を見て、このコミュニティらしさを感じました。誰よりも早く会場入りし、表には見えない準備を黙々と進める人たち。そして何より、「みんなで集まれること」そのものを心から楽しんでいる人たちです。

一方、別の部屋ではデモ担当のチームが最終確認を行っていました。最新機能を何度も試し、説明の流れを確認し、本番直前まで細かな調整を続けます。その姿からは、自分たちが作っている製品への誇りと、それを使う人への責任感が自然と伝わってきました。

会場を歩いていると、わぷーの姿を見かけました。
わぷーは WordPress コミュニティで長く親しまれている非公式ながら、みんなに愛されているキャラクターです。
WordCamp が開催されるたびに、その土地に合わせた装いをする新しいわぷーが登場します。
初めてクラクフ版わぷーを見つけたときは、思わず笑顔になりました。初参加の多くの人も、きっと同じ気持ちだったのではないでしょうか。

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最初のセッションは「トーストの作り方」

私が最初に参加したセッションは、Stacy L. Carlson さんによる「How to Make Toast(トーストの作り方)」でした。

隣に座ったのは、Automattic for Agencies プログラムのパートナーの Uffe Christiansen さんでした。私たちは一緒に取り組みました。課題は、トーストの作り方の手順を書き出すことでした。

簡単に思えますが、実際にやってみると驚くほど難しいのです。
グループごとに完成したフローチャートを見ると、3ステップで終わるものもあれば、20ステップ以上のものもありました。
パンは最初からスライスされている前提なのか、それとも一斤から切るところから始めるのか。トースターのコンセントはいつ差すのか。パンを入れてから電源を入れるのか。
焼き上がりを判断する基準は何なのか。だれがその判断を下すのか。
同じ「トーストを作る」という行為でも、人によって前提がまったく違うことが見えてきます。このワークショップが教えてくれたのは、トーストの作り方ではありません。

人は無意識のうちに、多くのことを当たり前と思い込み、省略してしまうということです。自分には当然に思える判断も、他の人にとってはそうではありません。

その違いを意識しなければ、チームで仕事を進めることも、プロセスを共有することもできません。 AI に仕事を任せるなら、なおさらで、曖昧なままでは伝わりません。まずはトーストを正確に説明できるようになること。

そこから、仕事の言語化が始まります。

検索をめぐる議論は、リアルな場でも続いていた

この一年、私たちのコンテンツチームでは、お客様の検索行動の変化に対応するため、さまざまな取り組みを進めてきました。SEOだけでなく、AI を活用した検索や、LLM が情報を引用する時代へ。検索そのものが変わりつつあるからです。

だからこそ、このテーマがほぼすべてのセッションで取り上げられていたことにも納得がいきました。

基本は、今まで以上に重要になった。良質なコンテンツ。経験に裏打ちされた視点。信頼できる専門知識。どれも以前から重要だと言われてきました。しかし今では、それらは単に評価されるためではなく、AI に引用されるための前提になっています。ツールは変わっても、本質は変わりません。

ブランドは、新しいバックリンクです。
AI 主導の検索で成果を上げているブランドには、共通点があります。明確な考えを持ち、実際の顧客データを発信し、独自の視点を貫き、複数のプラットフォームで一貫したメッセージを届け続けていることです。理屈はシンプルですが、実践するのは簡単ではありません。一度うまく回り始めると、その積み重ねがさらにブランドを強くしていきます。

私たちが追うべきものは、もはやクリックではなく、引用です。2026年に発表された AI の引用パターンに関する複数の調査によると、AI の回答に含まれるブランドへの言及の約85%は、自社サイトではなく、第三者のページを引用元としていました。Google の検索順位だけを軸にコンテンツ戦略を立てるのは、不完全な地図を頼りに進むようなものです。

AI からの流入は、コンバージョン率が高い傾向があります。
AI は、信頼できる情報源としてあらかじめブランドを選んで紹介しています。LLM に引用されているなら、そのリンクをクリックする人は、すでに一定の信頼を持って訪れています。つまり、「トラフィックが減った」という数字も、これまでとは違った見方が必要になるということです。

問うべきは、「良いか」ではなく、「違いがあるか」です。
他と変わらない、ありきたりなコンテンツは引用されません。独自の調査、実際のデータ、自分たちならではの視点。そうしたものこそが、AI に引用されやすいコンテンツです。

「AI がマーケティングを救ってくれるわけではない」これは、あるセッションのタイトルです。ツールは変わりますが、基本は変わりません。顧客を知り、サポートへの問い合わせやレビューに目を通す。そこから見える課題を解決し、その経験を発信するということです。

そして、そのすべてに共通して感じられたのは、ひとつの大きな方向性でした。
SEO は、単独で成り立つものではありません。AIO、ブランド戦略、PR、コンテンツと結びつき、それぞれが連携しながら成果を生み出す時代になっています。

アクセシビリティは、付加機能ではありません。WordCamp を支える考え方です。

今回、特に印象に残ったのは、このコミュニティが誰もが参加しやすい環境づくりを大切にしていることでした。単なるスローガンではなく、イベント運営の基準として自然に実践されているのです。

会場には無料の託児サービスが用意されていました。ニューロダイバーシティをテーマにしたセッションも開催されていました。ある講演では、「アクセシビリティへの配慮は、正しいことだから取り組むだけではない。ビジネスにとっても大きな価値がある」という考えが紹介されました。業界の調査でも、それは裏付けられています。75%の企業・組織が、アクセシビリティへの取り組みは売上の向上につながっていると回答し、62%のビジネスリーダーは、利用しづらい体験が原因で顧客が購入や申し込みを途中でやめたケースがあると答えています。

オープンウェブが最も価値を発揮するのは、誰もが利用できるときです。利用者にもメリットがあり、企業にもメリットがあります。アクセシビリティは慈善活動ではありません。優れたデザインであり、賢いビジネスの選択でもあるのです。

変わらないものがある

ウェブの未来を語るカンファレンスで、何度も昔から変わらない原則に立ち返るとは思っていませんでしたが、実際はそうでした。近道はありません。地道な努力。誠実さ。そして、一貫性。時代が変わっても、多くの情報があふれる中で、人に届き続けています。

技術は変わります。AIO、SEO、バイブコーディング、AI エージェント。5年前とはまったく違う景色が広がり、5年後にはまた別の世界になっているでしょう。それでも、変わらないものがあります。顧客を知ること。自分たちにしかできない方法で、そのニーズに応えること。一貫して発信し続けること。誠実であること。そして、やるべきことを着実に積み重ねること。

これは、コンテンツ戦略だけに当てはまる話ではありません。WordPress コミュニティの在り方でもあります。だからこそ、人々は81か国からクラクフに集まり、トーストのワークショップに参加し、検索の未来を語り合い、開場前にはホテルの一室でピンバッジを並べながら来場者を迎える準備をしているのです。

まだ WordCamp に参加したことがないなら、ぜひ一度足を運んでみてください。セッションのためだけではありません。基本は今も変わらないこと。オープンウェブを支えている人たちと出会う価値があることです。そして、オーディエンスにとって本当に価値のあるものを作ることに代わるものは、どんなアルゴリズムにも、AI にも、近道にもないということを、あらためて思い出させてくれるはずです。

WordPress.com は創業当初から、このコミュニティとともに歩んできました。ベースにあるのは、このカンファレンスで何度も語られていたことです。オープンウェブで何かを発信したい、新しいものを作りたいと思ったら、ぜひ WordPress.com で始めてみてください

初めての WordCamp が終わりました。近くで開催される WordCamp を探してみてください。または、フラッグシップイベントの日程をカレンダーに登録しておきましょう。

  • WordCamp US — アリゾナ州フェニックス、2026年8月16日〜19日
  • WordCamp Asia 2027 — マレーシア・ペナン、2027年4月9日〜11日
  • WordCamp Europe 2027 — スペイン・マラガ、2027年5月27日〜29日
  • WordCamp India — 開催地未定、2027年

そしてぜひ、わぷーの投稿をお待ちしています